相続法が40年ぶりに改正され、配偶者が今よりも有利に

2018年に40年ぶりに大改正された相続法は、2019年から順次適用されて行きます。

いったい何がどのように変わったのか、改正の大きなポイントは6つです。特に配偶者に関する内容と、遺言書に関する内容が大きな点だと思います。

それぞれ順に見ていきましょう。

参考資料:法務省資料

配偶者が自宅に住み続けられる権利が制定された

概要

2020年4月1日施行。配偶者居住権の新設。

被相続人の持ち物であった自宅が、配偶者以外の人に相続された場合でも、配偶者が優先的に住むことができるという「配偶者居住権」が制定され、認められるようになります。

考え方としては、自宅には所有する権利の所有権と、住む権利である居住権の2つがあり、これを分離して相続することができ、所有権を配偶者が相続できなかった時でも、居住権の相続は優先的に認められますよ、というのがこの配偶者居住権です。

出典:法務省資料

例えば相続人が配偶者と子供1人が相続人の場合、2分の1ずつをそれぞれが相続しますが、自宅の扱いは意外と困ります。

上図での例では相続するものとして自宅が2000万円の評価、現金が3000万円です。

配偶者が自宅に住みつつ法定相続を行おうとすると、現金が500万円しかなく、金銭的に不安な状態になります。

ここで配偶者居住権が新設されたので、自宅を居住権(1000万円の評価)と所有権(1000万円の評価)に分割すれば、配偶者は居住権と現金1500万円、子供は所有権と現金1500万円という分け方が可能になります。

ただしこれはあくまで子供が自分の相続分を主張した場合で、配偶者が100%相続を行えばこのようなことは起こりません。配偶者には1億6000万円までは相続税の控除がありますので。

要は子供が自分の取り分を今のうちに確保しておこうと思う場合などに使われる可能性がある法律ということです。

余談ですが、居住権は前述の通り現金的な価値を持ちますので、相続時に相続税の対象になります。

参考リンク(外部):配偶者居住権とは?施行はいつから?遺された配偶者を保護する新制度を解説

夫婦間の自宅の贈与が遺産分割の対象外になった

概要

2019年7月1日施行。婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与などに関する優遇措置。

条件として20年以上の婚姻関係にある場合ですが、夫婦間での自宅の贈与が遺産分割の対象外になりました。

元々20年以上の婚姻関係にある夫婦間での自宅の贈与につては2000万円まで贈与税がかからないという特例があるので、これを利用して自宅の一部か全部の2000万円までの範囲を生前に相続しておくということができます。

参考外部リンク:No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除|国税庁

以前までであれば、相続発生時にその贈与分を遺産分割の対象として計算しなおしていたのですが、相続法の改正により遺産分割対象外となったことで、結果的に配偶者の取り分が増えることになりました。

出典:法務省資料

上図では被相続人が生前に配偶者へ2000万円分の自宅の持ち分を贈与、相続発生時には自宅の持ち分の残り2000万円とその他の遺産6000万円の計8000万円があり、これを配偶者、子供2人で分けます。

以前のルールでは、配偶者が先に贈与でもらった2000万円分は遺産の先渡しとみなされ、相続の計算の時にはこれも計算に入れていました。

つまり先渡しの2000万円+8000万円の合計1億円を法定相続額で分けて、配偶者5000万円、子供それぞれ2500万円ずつとなります。

配偶者は先に2000万円分を受け取っているので、相続時には残りの3000万円だけ受け取れます。

しかし新しいルールでは先にもらったものは法定相続額の計算時に入れないことになりました。

これにより8000万円を法定相続額で分けるので、配偶者4000万円、子供それぞれ2000万円ずつとなります。

さらに配偶者はすでに2000万円分を持っているので、合計すると6000万円となり、旧ルールの時よりも1000万円手残りが増えました。

遺言書の一部をPCで作成可能に

概要

2019年1月13日施行。自筆証書遺言の方式緩和。

以前の制度では、自筆証書遺言の全ての項目、たとえば財産目録や通帳の内容について被相続人が自筆する必要がありました。

しかし新しい制度ではPCでの目録作成や通帳のコピーの添付などが認められるようになり、遺言書の作成が以前よりも簡単になりました。

ただし遺言の本記(誰に何をなどの本文)の部分は自筆で書かなければなりません。

上図のように、新制度の下では自筆遺言にPCで作った目録などの別紙を添付することができます。

遺言書を法務局に預けることができるようになった

概要

2020年7月10日施行。法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設。

制度創設前であれば、自宅保管や弁護士に保管してもらうのが一般的でしたが、前者は家族が見つけられない・書き換えられる・破棄されるなどの問題があり、後者はそれなりのお金がかかるといった問題がありました。

しかし法務局での遺言書の保管ができるようになったので、それらの問題がなくなりました(後者に関しては施行までに設定される手数料次第)。

また法務局で保管してもらうためには、一定の形式に沿って書かれた有効な遺言書でなければならないので、相続発生時に実は遺言書が無効だった、といった問題も法務局の保管時のチェックによって同時に解決されています。

預けることができる法務局はどこ?

遺言書の保管の申請は,遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所(法務大臣の指定する法務局)の遺言書保管官(法務局の事務官)に対してすることができます。なお,遺言書保管所の指定及び具体的な管轄については,施行日(2020年7月10日)までの間に定めることとなります。

法務省資料のQ&A6より

預けられる法務局
  1. 遺言者の住所地
  2. 遺言者の本籍地
  3. 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所(法務大臣の指定する法務局)の遺言書保管官(法務局の事務官)

3については2020年7月までに設定されるようですが、基本的に想定されているのは1か2です。

介護をしていた息子の嫁も一部権利の主張が可能に

概要

2019年7月1日施行。特別の寄与の創設。

息子の嫁としましたが、被相続人の相続権の無い親族であることが条件なので、娘の婿でも孫でも大丈夫です。

今までは息子の嫁が被相続人の介護を無償で行っていても、相続時には嫁には相続権がないので一銭ももらうことができませんでしたが、特別の寄与の創設により、相続人に対して金銭の請求が法律で認められるようになりました。

請求できる金額については具体的には決まっていないようです。また話し合いではなく裁判で決める場合には、被相続人が死亡したことを知って6か月以内または被相続人の死亡から1年以内の短い方が審判の申し立ての期限となります。

寄与者が特別寄与料を受け取るには、相続人たちに直接申し出る必要があります。特別寄与料の具体的な金額の決まりはなく、双方で、寄与の程度や期間、遺産の総額などを勘案して決めます。

寄与者と相続人が協議をして決裂した場合、寄与者は家庭裁判所に審判を申し立てることができます。

この審判請求は、寄与者が被相続人の死亡及び相続人を知ってから6ヶ月以内か、被相続人の死亡を知らない場合でも死亡から1年以内に行わなければなりません。

相続弁護士ナビより

故人の預金の引き出しが可能に

概要

2019年7月1日施行。預貯金の払い戻し制度の新設。

故人の預貯金が遺産分割の対象であったとしても、遺産分割前に一定の範囲で相続人が預貯金を受け取ることができるようなったという制度の新設です。

以前は遺産分割協議が終わるまで預貯金は引き出すことができなかったので、葬儀の代金などを誰かが立て替えなければなりませんでした。

払い戻しができる金額などは以下で例を挙げてご説明します。

遺産分割協議前までに払い戻しができる金額は、預貯金の3分の1に、払い戻しをする人の法定相続割合をかけた金額を上限とします。

例えば600万円の預貯金を子供二人だけが相続する場合には、それぞれ法定相続割合は2分の1ずつなので、預貯金の6分の1の100万円がそれぞれが引き出せる最大額となります。

ただし1つの金融機関で引き出せる金額の上限は150万円です。

まとめ

預貯金の一部引き出しや、PCで遺言書の一部作成などは、長年何故できないのかと言われてきたことでした。

また特別の寄与に関しても、長男の嫁が両親の介護をするという文化が昭和から平成にかけては一般的だったので、今さらという感じではありますが必要な法整備だと思います。

ここで紹介した以外にも「遺言の活用」「遺留分制度の見直し」が改正・新設されていますので詳しくは法務省の資料でご確認ください。

参考資料:法務省資料

 

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ちくわ
3歳のネザーランドドワーフ♂。中の人は30代の筋トレマニアの宅建士。 大学を卒業後にせどり、アフィリエイト、マルチ商法、不動産営業、仮想通貨などいろいろ手を出した過去がある。まじめに書いてる記事の中でちょくちょく本音がポロリしてる。