誰でも疲れにくい体になりたい、今ある疲れを解消したいと思うはずです。
そんな人たちに向けて発売された「スタンフォード式疲れない体」という本は、名門スタンフォード大学のスポーツ医局に15年以上務める筆者が、スタンフォード大学の学生選手に指導する最先端科学に基づく疲れに対するケア方法をまとめた内容となっています。
概要
この本の構成として、0章から4章にプロローグ、エピローグを加えた合計7つの章から成り立っています。
プロローグはスタンフォード大学と著者の自己紹介、第0章が疲れに関する知識、第1章が疲れの予防法、第2章が疲れの回復法、第3章が疲れにくくなる食事、第4章が普段の動作を疲れにくく改善する方法、エピローグは本を通して伝えたかった筆者の思いについて書かれています。
その中で著者が最も重要視しているであろう内容は第1章の「IAP呼吸法」と呼ばれる呼吸法です。
以下では各章をそれぞれ要約していきますが、第1章のIAP呼吸法さえ覚えて実践しておけば、この本を読んでスタンフォード式の疲れケアを実践しているといっても過言ではありません。
プロローグ:全米最強の医局が明かす「疲れない体」の作り方
スタンフォード大学は学問では名門として知られていますが、スポーツでも全米で1番の大学であるというのは日本ではあまり知られていません。
例えばアメリカのオリンピックでの獲得メダル数のうち22%はスタンフォード大学の学生が取得したものであり、2016年のリオデジャネイロオリンピックでは27個ものメダルをスタンフォードの学生が取得しています。
スタンフォード大学がこれだけ強いのは科学的知見に基づき人体の構造に沿った回復方法を実践しているからです。
そして著者の山田知生氏は元プロスキーヤーで、現在はスタンフォード大学のスポーツ医局でアソシエイトディレクターとして、15年以上にわたり学生選手の練習をサポートしています。
その山田氏がこの本で伝えるのは、「医学」「脳神経科学」「栄養学」といったスタンフォードの最新知見に基づき組み立てられた「回復プログラム」です。
第0章:スタンフォードで突き止めた「疲労発生」のメカニズム
疲労の正体
疲労とは、体と神経の連携が崩れて起きる現象のことで、筋肉と神経の使い過ぎや不具合によって体の機能に不具合が生じていることです。
つまり筋肉だけでなく、神経のコンディションの悪さも疲労を引き起こすことが最新の科学の見解となっています。
神経には大別して「自律神経」と「中枢神経」の二つがあります。
自律神経
自律神経は意識しないで行われていることをつかさどる神経のことで、日中優位な交感神経と、夜間優位な副交感神経に分かれています。
この交感神経と副交感神経の交換がうまくいかないと、病気ではないが不調という状態が引き起こされます。
中枢神経
中枢神経は手足を動かすといったような動作の指示を体の各部位に伝える神経のことです。
体が歪んだりすると指令がうまく伝わらずに「だるい」「重い」といった疲労の感覚を引き起こします。
体の歪みに注目
神経疲労の中でも筆者は体の歪みに起因する中枢神経の疲労に注目しています。
体が歪んでいると中枢神経からの指令が体の各部位に伝わりにくく、動作一つ一つで神経にも筋肉にも余計な負荷がかかり、疲労を感じやすくなります。
つまり「歪んでいる体=疲れやすい体」と言えます。
この体の歪みと密接な関係にあるのが「体内圧力」です。次の第1章ではIAPメソッドにより、体内圧力をコントロールして、体の歪みを取り、疲れにくい体づくりを行います。
第1章:世界最新の疲労予防メソッド「IAP」メソッド
IAP呼吸法とは
アスリートの疲れ方は競技ごとに異なりますが、スタンフォード大学で用いられている共通の回復方法がIAP呼吸法です。
IAPとはIntra Abdominal Pressureの略で、日本語で言えば腹腔内圧です。
これは吸うときも吐くときも、お腹の中の圧力を高めてお腹周りを固くする呼吸法で、腹式呼吸とは異なり、吐くときもお腹はへこませません。
腹腔内圧を高めることで、体の中心を安定させ体の歪みを直し、疲れにくい体づくりをします。
IAP呼吸法で期待できる効果
- 腹圧が高まり体の中心がしっかり安定する
- 体幹と脊柱が安定すると正しい姿勢になる
- 正しい姿勢になると中枢神経と身体の連携がスムーズになる
- 中枢神経と身体の連携がうまくいくと体がベストポジションになる
- ベストポジションになると体に無理な動きがなくなる
- 結果としてパフォーマンスレベルが上がり疲れや怪我も防げる
IAP呼吸法のやり方
取り組む前に以下の注意点を守りましょう。
- 筋肉に力を入れず、リラックスして行う
- 無理をせず、体調がすぐれないときは中断して、コンディションが戻るのを待つ
- 一日最低一回の取り組みをする
IAP呼吸法では横隔膜を意識して、横隔膜を稼働させることが重要です。
横隔膜を下げながら息を目一杯吸い、お腹をパンパンに膨らませたまま息を吐きます。
まずは下図の手順で座ったまま行ってみましょう。
出典:サンマーク出版
慣れてきたら手を使わずに行い、立ってできるようになったら日常生活でも腹圧を意識して高めた呼吸をするようにしていきましょう。
このIAP呼吸法は予防法なので、現在感じている疲れに対しては別のアプローチが必要です。それが第2章で紹介する究極のリカバリー法です。
第2章:疲れを持ち越さない究極のリカバリー法
休息は疲れの根本解決ではない
現在感じている疲れの原因として、長時間労働や睡眠不足以外にも、体がベストポジションから崩れ、変な癖がついているというのが理由の一つです。
これは休息をとるだけでは解決することができません。
というのも体は左右対称ではないため、放っておけば勝手にベストポジションからずれて疲れやすい体になっているのです。
このずれた体では本来の体の構造では間違った動き、すなわち変な癖がついてしまっています。
これらを取り除くためには能動的に対処しなければなりません。
動的リカバリーメソッド
動的回復法は体を動かして回復を図る方法です。
疲れている日は運動をしたくないと思うかもしれませんが、人間の体は本来動くためにできているので、運動しないほうが次の日に疲れを持ち越すことになります。
また交感神経は軽く運動すると活発になるので、その後は反動で副交感神経が優位になりやすく、休息モードにスムーズに入りやすくなります。
さらに軽い運動の前後にリセット法と呼ばれる動作をすることで、疲れと一緒に変な癖の矯正をすることができます。
リセット法の具体的な動作などはここでは触れませんが、これらにIAP呼吸法を組み合わせることで、ストレスからくる肩こりを和らげることもできます。
その他のリカバリー方法
- 座り疲労に3レッグスメソッド
- 肩こりに効く肩甲骨ムービング
- 腰痛にはIAP呼吸法
- 目の疲れには目の筋膜リリース
- ダメージにはアイスヒートメソッド
- スタンフォード式回復浴
- 睡眠回復術
本書内で具体的に紹介されている上記の方法はそれぞれの疲労に合わせたリカバリーメソッドです。適宜選択し、積極的に疲労をマネジメントしていきましょう。
第3章:抗疲労体質になる一流の食事法
体を形成し、支えているのは元をたどれば食です。
筋肉疲労、神経疲労に加え内蔵の疲労というものもあります。食はこの内蔵疲労にも直結しています。
何を、いつ、どう食べるか、疲れない体を作るためにこの3点を徹底的に意識します。
朝の食事術
朝食ではビタミンとタンパク質を取ることが重要です。なので甘かったり脂肪分が多いいわゆるゴージャスな食事ではなく、質素でヘルシーなものを選択する方が良いです。
また朝食は抜かずに、できるだけ同じ時間に取ることを心がけましょう。
朝食抜きは血糖値の乱高下や、体温上昇が起こりづらいといったデメリットがあります。
腹八分目まで
全ての食事に共通ですが、食事の量は腹八分目までにするべきです。
満腹まで食べると消化に時間がかかり、食後の時間に倦怠感を催します。夜に食べ過ぎれば消化にエネルギーを持って行かれて、体がうまく休まらない可能性もあります。
ただし空腹も避けなければなりません。
そのため、一日3食ではなく、細かく栄養補給をするようにしましょう。お腹がすいたらナッツやフルーツで間食をするようにします。
取るべき「食材」「栄養」「量」
一日の食事を通してタンパク質と炭水化物の比率が3:1になるようにします、イメージ的には具の多い牛丼のイメージです。
間食では果物を食べビタミンをチャージします。
タンパク源として、牛赤身肉、白身魚、鶏むね肉などがありますが、その中でも鶏むね肉はイミダペプチドと呼ばれる抗疲労物質が豊富なのでおススメです。
炭水化物はライ麦パンや玄米、クスクスなど色が茶色いものを選びます。白いものは糖質が多いので避けましょう。
野菜は昼食時に一番多く取り、その際の調理方法はできれば生が一番です。手を加えるたびに栄養素が抜けてしまうからです。
取ってはいけない禁断の疲労食
- 甘い朝食
- お菓子
- 清涼飲料水
- お酒
- エナジードリンク
第4章:スタンフォード式ハードワークメソッド
スタンフォード式疲れない日常動作
疲れない立ち方
腰を中心に軽く揺れながら立つ。
疲れない座り方
肩甲骨を寄せるよう意識し、耳と肩を結ぶ直線が地面と垂直になるようにする。
疲れない歩き方
かかと、足の外側、つま先の順で地面につけて歩く。
疲れないつり革の持ち方
つり革二つを両手でそれぞれ持つ。一つしか使えない場合は、一つを両手で持つ。電車はできれば座ったほうが良い。
その他
疲れないスマホの見方、疲れない収納の仕方、疲れないものの持ち上げ方など。
スタンフォード式マインドセット
ここまでで理論と実践方法を見てきましたが、しっかり回復できるかどうかについて考え方、すなわちマインドセットも重要な要素の一つです。
マインドセットとは気合などと違い、心理学的に「行動や体に影響する効果」が確認された「思考のルール」のことです。
普段の思考を疲れにくいマインドセットにすることで、より疲労へのマネジメントが促進されます。
「成長型マインドセット」「固定型マインドセット」
子供が疲れ知らずなのは、何に対しても興味を持ち、失敗を繰り返しながら分からないことには何故と問いかけることができる成長型マインドセットだからです。
逆に疲れやすい人は失敗を恐れ、分からないことはそのままにあきらめてしまう固定型マインドセットになっています。
なので成長型マインドセットを身に着けることが疲労マネジメントに対して有効となります。
コツとしては、現在できないことに対して「~できない」と考えるのではなく、「まだ~できない」と一言「まだ」を付けます。
こうすることで「できない」という固定型マインドセットだった人でも、「今はできないだけ、明日か来年か分からないができるようになる」という成長型マインドセットに誘導していくことができます。
そしてこれとセットで行うべきなのが「超・短期目標の設定」です。
今はできない、では今の自分には何ができるのか?という問いに対する答えを用意することでさらに成長型マインドセットを促進します。
疲労負債を溜めない「体とマインドの準備」が短期的にも長期的にも成果を上げる秘訣なのです。
エピローグ
「病気になったから会社を休む」は許されるのに「疲れているから会社を休む」は許されない、これは疲労に対する認知がまだまだ甘い証拠です。
みんな慢性的に疲れているのに疲れに対する理解が浅い、これが日本がなんとなく元気のない空気がある原因なのではないでしょうか。
今の日本には疲労マネジメントのスキルを磨いて疲労負債を解消することこそが必要なのです。
一人一人のパフォーマンスの向上が国全体のパフォーマンスを底上げし、この国の明るい未来へとつながっていくのです。
まとめ
・神経疲労の予防にはIAP呼吸法
・疲労回復には能動的リカバリー法とIAP呼吸法
・食事は高たんぱく低炭水化物+ビタミンミネラル
・成長型マインドセットで心も疲れにくくする