「21世紀の資本」は、2013年にフランスの経済学者であるトマ・ピケティ(Thomas Piketty)により書かれた「Le Capital au XXIe siecle」の和訳本の題名です。
この本はフランス語で出版されたのちに2014年には英語版が出版されたのですが、それがアメリカだけでも半年で50万部を売り上げる大ヒットとなりました。
日本語版も2014年末に発売され、5500円という価格であるにも関わらず13万部近いヒット作となりました。
このように経済学の専門書が世界的にヒットするという非常に珍しい現象を起こしたトマ・ピケティの21世紀の資本とはどのような内容なのでしょうか?
21世紀の資本の要点
21世紀の資本の内容は簡単に言うと「今の世界はお金持ちがさらにお金持ちになり、格差はどんどん広がるシステムである」という事を大量のデータを用いて説明しており、さらにピケティは「その格差問題の是正に最も有効なのは累進課税である」という主張をしています。
この2点がこの本の要点であり、この2つのことを証明あるいは説明するために膨大な量のデータを収集・解析してまとめたのが21世紀の資本であるというわけです。
それではその2点をそれぞれ詳しく見ていきましょう。
格差問題 -金持ちがさらに金持ちになるシステム-

出典:https://cruel.org/books/capital21c/figurestables.html
格差問題の話をする時に、ピケティは以下のような式を用いて説明しています。
r : 資本収益率(上図●)
g : 経済成長率(上図□)
この式のとおり、ピケティは今の世の中は資本収益率が経済成長率を上回っており、そしてこれからも上回り続ける、だから格差がどんどん広がると言っています。
このことを示したのが上で示した図10.9です。古代から現代、未来にかけてrは常にgを上回っています。
ではなぜ資本収益率が経済成長率を上回ると格差がどんどん広がるのでしょうか?
まず資本収益率についてですが、かなり大雑把に言えば投資の利回りのことであり、投資による利益は次の年の投資に回すことができると考えれば、資本収益率 = 投資収入上昇率とも言えます。
一方で経済成長率は、こちらも大雑把に言えば働いて得られる労働収入の上昇率のことです。
例を挙げると以下のとおりです。
ここに年収が500万円の投資家と、同じく年収が500万円の会社員がいます。


1年後


30年後


スタートの年収が同じでも30年もするとご覧の通り2160万円と906万円となりました。
これがr > gで起こる格差ということです。
もちろん投資収入は投資額が多ければ多いほど多くなりますので、お金持ちになればなるほど投資収入は多くなります。
実際に資本収益は一部のトップ層の資本家だけのものといっても過言ではありません。
一方で労働収入は一般人も資本家も関係ありません。
お金持ちほど有利な資本収益率rが、誰にも平等な経済成長率gよりも高いということは、お金を持っていない人が働いても、お金を持っている人との収入・資産の差はどんどんと開いていくだけという事。
これがピケティが「r > gだから格差は広がる」と言っている根拠。
ちなみに21世紀の資本の大部分が、過去からこの先の将来までr > gであるという事の根拠となるデータを示すためページとなっています。
というのも、ピケティはr > gを数学的に証明したわけではなく、あくまで歴史的事実でそうなっているとしただけであり、それを主張するための根拠として膨大なデータを用いています。
注:経済成長率には資本収益の成長率も含まれているので、上記のように単純に労働収入の上昇率=経済成長率ではないが、考え方としては大まかには間違っていない。
累進課税による格差是正
前述のようにr > gというのが基本のこの世界では、格差は広がるばかりとなっています。
ということは格差を是正するためには簡単に言うと「r = g」となればいいわけです。
そしてピケティは累進課税による格差の調整を提案しています。
所得税や相続税のように、稼いだりもらったりする額が大きくなるほど税率も大きくなる税金のこと。
現在日本やアメリカをはじめとして非常に多くの国で累進課税は取り入れられていますが、税引き後の資本収益率と経済成長率を比べてみてもやはり資本収益率が勝っています(図10.10)。

出典:https://cruel.org/books/capital21c/figurestables.html
なのでピケティは世界で協調して累進性を高めた税のシステムを構築するべきであると主張しています。
しかし一方でピケティの予想では、実際にはさらなるグローバル化によって税金の安い国へと逃れることが容易になることで、国家間の税制の競争が高まり、結果的に将来的には今よりも税率は下がることで益々格差は開くとしています。
ピケティの理想は税金の調整で格差をなくすことだけど、そのためには世界が協力しないといけない。
まぁそんなの無理だよね、というのがピケティの本音。
まとめ
管理人の考察:ぶっちゃけピケティの何がすごいの?
21世紀の資本では上記のように「絶対このあとも格差広がるよねー」「格差社会反対だから累進課税きつくすれば直るよねー」「でも世界中で一緒に税制改革とか無理だよねー」という内容が書かれているわけですが、一見すると大ブームになるほどすごい内容には思えません。
格差が広がるという話についてはマルクスが資本論の中でメインに取り扱っている話題ですから今更という感じですし、主張と結論についても「こうすれば格差がなくなるけど無理」と言っているので、この点も「格差が来るとこまで来たら「資本主義をぶっ壊す!」っていう人たちが革命を起こして資本主義社会が終わるよ」と言っているマルクスの方がそれっぽい結論になっています。
それではなぜ21世紀の資本は世界的な大ヒットとなったのでしょうか?
その理由は以下の二つだと考えられます。
1.経済学者クズネッツがノーベル経済学賞を取った時の理論を覆したこと
2.膨大な資料を集めて分析し、結論まできちんと出したこと
1.経済学者クズネッツがノーベル経済学賞を取った時の理論を覆したこと
クズネッツがノーベル経済学賞を受賞した理由となった論文では「元々小さかった所得格差は資本主義の初期で増大するが、経済成長が進むにつれて格差は小さくなっていく」として逆U時の形をしたグラフを用いて説明しました。
しかしピケティはこれを否定し、所得格差は益々広がっていくだけという結論を示しました。
なぜクズネッツとピケティは全く反対の結論となったのでしょうか?
その理由は用いたデータの量と時期にあります。
ピケティは1700年代から2012年まで、中には西暦0年前後からの世界各国のデータを用いて結論を出しています。
しかしクズネッツは第一次大戦後(終戦1918年)から1950年代程度までのアメリカ合衆国だけのデータを分析して結論を出しました。(下図の赤の部分)

クズネッツが用いたデータは、第一次世界大戦の戦後であるという状況に加え第二次世界大戦も勃発しており、現在やそれ以前の過去と比べてもかなり特殊な時期であったと言えます。
そのため長期で見た場合にはその時期は例外的なデータとなっており、ピケティが長期のデータから導き出した結論と真逆の結論をクズネッツは導き出してしまったというわけです。
2.膨大な資料を集めて分析し、結論まできちんと出したこと
ピケティが用いたのは主に1700年代から2012年までのアメリカやヨーロッパ、アジア、アフリカなど世界各国のデータです。その量は膨大で収集と分析に15年を費やしたとも言われています。
マルクスは著書:資本論の中で格差が広がるとは言っていますが、データを用いて分析するということはしておらず、あーなってこーなるはずだからきっとそうなるよね、という頭の中での観念的な内容に終始しています。
これを実際のデータを用いて裏付けを与えたのがピケティである、と見ることもできます。
また前出のクズネッツも当時としては非常に多くのデータを用いていますが、前述のとおりデータ量の差で間違った結論を導き出してしまいました。
現代社会ではビッグデータを用いてマルクスやクズネッツとは比べ物にならない量のデータを入手することができるため、ピケティは21世紀の資本を完成させることができたのです。
・ピケティが調べたこと:今までの歴史から見て格差は広がり続ける
・ピケティが主張すること:累進課税をうまく使って格差を是正できる